弓道を始めたばかりの時期には、離れの瞬間に弦が頬や耳の近くへ当たったり、狙った的より右側へ矢が集まったりすることがあります。こうした症状は「狙いを右や左へずらせば直る」と考えやすいのですが、実際には離れだけではなく、物見・胴造り・引分け・会・手の内・馬手など射法全体を確認することが重要です。
全日本弓道連盟も、射法八節はそれぞれ独立した動作ではなく、一連の流れとして相互に関係すると説明しています。離れについても、会までの姿勢を崩さず、左右上下へ十分に伸び合った結果として矢を放つことが基本です。[参照:全日本弓道連盟「射法について」]
そのため、弦が毎回顔に当たり、さらに矢が毎回右隣の的方向へ飛ぶ場合には、狙いを西半月から別の見え方へ変更する前に、まず指導者に射を正面・後方から確認してもらうのがおすすめです。特に高校1年生の段階では、的中を狙いで補正するより射形を安定させる方が、その後の上達につながります。
- 離れで弦が顔に当たるのはなぜ?
- まず確認したいのが物見と頭の位置
- 胴造りが崩れて弓との距離が近くなっていないか
- 手の内が崩れている可能性も確認する
- 馬手を後ろへ振る離れになっていないか
- 顔に当たるのが怖くなって縮こまる悪循環にも注意
- 安全のため胸当てや服装も確認する
- 矢が毎回「右隣の的」へ飛ぶ場合は狙いだけの問題とは限らない
- 最初に足踏みが的へ正しく向いているか確認する
- 右へ飛ぶなら押手・手の内も見てもらう
- 「西半月」と「東半月」はまず言葉を整理した方がよい
- 矢が右へ行くから東半月へ変える、という修正はおすすめしにくい
- 狙いは本人から見える景色だけで決めない
- 「的中した狙い」より「正しい射での狙い」を探す
- 後輩を見るときのチェック順序
- ゴム弓で物見と離れを確認する方法
- 巻藁で狙いより離れを確認するのも有効
- 動画撮影を使うなら安全な位置から
- 顔を払った跡が強い場合はその日の的前を中止する判断も必要
- 先輩だけで直そうとしないことも大切
- まとめ|狙いを変える前に、弦が顔へ当たる原因と射形を直す
離れで弦が顔に当たるのはなぜ?
弦が顔へ当たる原因は一つではありません。代表的には、物見の状態、弓と身体の位置関係、手の内、押手、馬手の離れ方、会での左右の張り合いなどが関係します。
全日本弓道連盟の初心者向け解説では、会で頭を動かさず、左右の肩や手を保ちながら身体全体で張り合うこと、離れではその姿勢を崩さず自然に離すことが示されています。[参照:全日本弓道連盟「上達への道」]
毎回同じ場所に弦が当たる場合は偶然ではなく、同じ射癖が再現されている可能性があります。顔を避けるように離れで頭を動かすと別の崩れを作ってしまうため、弦が当たる原因そのものを探すことが大切です。
まず確認したいのが物見と頭の位置
初心者で確認しやすいのが物見です。的をよく見ようとして顔を弓側へ近づけたり、会で頭をのぞき込むように動かしたりすると、弦との距離が変化します。
全日本弓道連盟は、引分けから会にかけて「顔をそらせたり、逆にのぞき込んだりして身体の中心線をずらしてはいけない」と説明しています。[参照:全日本弓道連盟]
後輩を見るときは、会に入ってから頭が弓側へ動いていないか、顎が上がったり下がったりしていないかを横や後ろから確認すると分かりやすいでしょう。ただし顔だけを無理に遠ざける修正はおすすめできません。
胴造りが崩れて弓との距離が近くなっていないか
弦が顔へ当たる場合、顔だけではなく身体全体の位置も確認します。胴造りで上体が傾いたり、腰や肩の線が崩れたりすると、会で弦と顔の位置関係が変わります。
全日本弓道連盟は、胴造りでは背筋を伸ばし、左右の肩を整えて両足の上へ上半身をまっすぐ置くことを基本として紹介しています。[参照:全日本弓道連盟]
例えば会で右肩だけ前へ入り込んだり、上体全体が弓側へ寄ったりすると、離れの瞬間に弦の通り道へ顔が近づく可能性があります。離れだけを見るのではなく、足踏みから会まで姿勢が維持されているかを確認しましょう。
手の内が崩れている可能性も確認する
弦が身体へ当たる問題では、弓手の手の内も重要です。手の内が適切に働けば、離れの後に弓は自然な動きをします。
全日本弓道連盟の素引き解説では、弓構えの段階で手の内を整え、引分けの途中でもその形を崩さないことが説明されています。[参照:全日本弓道連盟「素引き練習」]
初心者では、弓を強く握り込んだり、会で手首を折ったり、離れ直前に握り直したりすることがあります。こうした動きは弓の挙動を変えるため、弦が顔や腕に近づく原因の一つとして確認する価値があります。
馬手を後ろへ振る離れになっていないか
離れの瞬間に右手を意識的に後方へ振るような動作になっている場合も注意が必要です。本来の離れは、右手だけを操作して弦を放すものではありません。
全日本弓道連盟では、引分けから会で左右均等に張り合い、離れでは姿勢を保ったまま自然に放つことを基本としています。[参照:全日本弓道連盟]
右手だけで「離そう」とすると、前離れや緩み、身体のねじれなど別の射癖につながる場合があります。後輩には「顔に当たらないよう右手を後ろへ飛ばす」といった修正をさせず、会での伸び合いを指導者と確認する方が安全です。
顔に当たるのが怖くなって縮こまる悪循環にも注意
一度弦が強く顔へ当たると、「また当たるかもしれない」という恐怖から、無意識に首をすくめたり顔を逃がしたりすることがあります。
すると物見や胴造りが毎回変化し、さらに弦が当たりやすくなるという悪循環になる場合があります。痛みがある状態で何十射も続けるのではなく、一度的前を止めてゴム弓や素引きへ戻ることも有効です。
全日本弓道連盟でも初心者は徒手、ゴム弓、素引き、巻藁などを経て的前へ進む練習過程を紹介しています。[参照:全日本弓道連盟]
安全のため胸当てや服装も確認する
弦が身体へ接触する可能性があるため、服装についても安全確認が必要です。全日本弓道連盟は、左胸にポケットや前ボタンがある服は離れで弦が払うおそれがあるとして不適当としています。
また女子の場合は胸当てを使用することも案内されています。[参照:全日本弓道連盟「道具について」]
顔への接触そのものを防ぐ道具ではありませんが、初心者の練習では服装や弽、弦、弓の状態まで含め、顧問や経験者が安全を確認してから続けることが重要です。
矢が毎回「右隣の的」へ飛ぶ場合は狙いだけの問題とは限らない
狙っている的より右へ矢が集まると、「もっと左を狙わせればいい」と考えがちです。しかし弓道では矢所が右へ偏る原因にも複数の可能性があります。
足踏みの方向、胴造り、物見、押手、手の内、馬手、会での左右のバランス、離れなどが変われば矢の方向も変わります。全日本弓道連盟も、射法八節全体が相互に関連するとしています。[参照:全日本弓道連盟]
特に「顔を弦が払う」と「矢が大きく右へ飛ぶ」が同時に起きているなら、狙いだけでなく射形そのものに共通する原因がある可能性を先に考えた方がよいでしょう。
最初に足踏みが的へ正しく向いているか確認する
非常に基本的ですが、初心者では足踏み自体が的へ正しく向いていない場合があります。
全日本弓道連盟では、足踏みは的を基準に両足を踏み開き、基本として外八文字約60度に構えると説明しています。[参照:全日本弓道連盟]
身体全体が最初から右方向へ向いていれば、その後だけを直しても射が安定しません。「矢が右へ行くから狙いを左へ」ではなく、まず足踏みから順番に確認する方が原因を見つけやすくなります。
右へ飛ぶなら押手・手の内も見てもらう
狙いが同じでも、離れで弓手側の働きが変われば矢所は変化します。そのため押手や手の内を顧問・有段者に直接見てもらうことが重要です。
初心者では、会で的中を意識しすぎて弓を握り込んだり、離れ直前に左手を操作したりすることがあります。このような意図的な操作が入ると、矢飛びが一定方向へ偏る場合があります。
狙いを変更すると一時的に的へ近づくことはあっても、根本の動作が残っていれば射形が変化するたび再び外れるため、長期的な解決になりにくいでしょう。
「西半月」と「東半月」はまず言葉を整理した方がよい
全日本弓道連盟の公式用語辞典では「半月の狙い」を、的を矢摺籐の左側につけて狙うことと定義しています。[参照:全日本弓道連盟 弓道用語辞典]
一方、「西半月」という言葉は射法訓など別の文脈でも用いられるため、学校や指導者によって「半月」「西半月」などの呼び方が異なる場合があります。
後輩へ教える際には用語だけで判断せず、顧問や学校の指導体系で「的が矢摺籐のどちら側にどの程度見える状態を指しているのか」を確認した方が混乱を防げます。
矢が右へ行くから東半月へ変える、という修正はおすすめしにくい
毎回右へ飛ぶ場合でも、すぐに狙いを反対方向へ変更するのは慎重にした方がよいでしょう。
理由は、狙いの見え方が正常でも離れで射形が崩れれば、矢はその方向へ飛ばないからです。また物見の深さや顔の位置が毎回違えば、本人が見ている「半月」自体の意味も変化します。
まず射形を安定させ、第三者に実際の矢の向きと狙いを確認してもらってから、必要であれば本人固有の狙いを調整するという順序が適切です。
狙いは本人から見える景色だけで決めない
弓道では照準器がなく、自分の視覚と身体感覚で狙います。そのため目の位置、物見、顔の形、弓の太さなどによって、同じ矢の方向でも本人から見える的と弓の位置関係は完全には同じになりません。
全日本弓道連盟も弓道には照準機がなく、自分の体感を頼りに射を行う競技であると説明しています。[参照:全日本弓道連盟「弓道の心」]
そのため先輩が自分の見えている半月をそのまま後輩にコピーさせても、後輩の矢線と一致するとは限りません。狙いは経験のある指導者に後ろから確認してもらう方が安全で確実です。
「的中した狙い」より「正しい射での狙い」を探す
初心者のうちは、狙いを意図的にずらすと一時的に中る場合があります。例えば矢が右へ飛ぶ射癖がある人が左へ大きく狙えば、結果だけなら的へ戻る可能性があります。
しかし、それでは射癖と逆方向の照準を組み合わせて相殺しているだけです。射癖が改善した瞬間、今度は左へ外れ始めます。
高校1年生の段階では、的中率を急いで上げるより、正しい射法八節を安定して繰り返し、その状態で自分の狙いを決めていく方が後々修正しやすくなります。
後輩を見るときのチェック順序
後輩の射を確認する場合は、離れだけを何度も見るより、射法八節に沿って上流から確認すると原因を絞りやすくなります。
| 確認箇所 | 見るポイント |
|---|---|
| 足踏み | 的へ正しく向いているか、幅や角度が大きく崩れていないか |
| 胴造り | 上体が左右・前後に傾いていないか |
| 物見 | 会に入ってから顔を動かしていないか |
| 引分け | 左右均等に開いているか |
| 会 | 肩・頭・身体の位置が安定しているか |
| 手の内 | 強く握り込んだり手首を折ったりしていないか |
| 馬手 | 離れを手先で作ろうとしていないか |
| 離れ | 頭や身体が動かず左右へ自然に開いているか |
| 残心 | 離れの直後にどちらかへ身体が崩れていないか |
この中で明らかな崩れを一度に全部直そうとすると本人が混乱します。最も基本となる一つか二つを顧問と相談して修正するのがおすすめです。
ゴム弓で物見と離れを確認する方法
弦が顔へ当たる恐怖が強くなっている場合、ゴム弓へ戻って射法を確認する方法があります。
全日本弓道連盟のゴム弓練習でも、引分けでは左手を的方向へ押し、右手を後方へ引き、左右をバランスよく均等に開くことが紹介されています。会では身体全体で張り合い、離れでは姿勢を崩さず自然に放します。[参照:全日本弓道連盟]
ゴム弓なら矢所を気にせず射形だけに集中できるため、顔を逃がす癖や手先で離す癖を確認しやすくなります。
巻藁で狙いより離れを確認するのも有効
ゴム弓で形を確認できたら、指導者の監督下で巻藁練習へ戻す方法もあります。
巻藁では的中を気にする必要が少ないため、「右へ外すから狙いを変えよう」という意識を一旦取り除けます。会で伸び合って自然に離れられるか、弦が顔へ当たるかを確認できます。
ただし巻藁でも矢を使用する以上、安全管理は必須です。全日本弓道連盟も巻藁後方に矢止めを設置するなど安全への注意を案内しています。[参照:全日本弓道連盟]
動画撮影を使うなら安全な位置から
本人の感覚と実際の動きが違う場合には、射を動画で確認すると分かりやすいことがあります。
特に横から撮影すると、会で頭が動いていないか、離れで右手だけが先に動いていないかを確認しやすくなります。後方からなら胴造りや左右の崩れも確認できます。
ただし射線内や矢道へ人やカメラを置いてはいけません。必ず弓道場の安全ルールと顧問の指示に従い、安全な場所から撮影してください。
顔を払った跡が強い場合はその日の的前を中止する判断も必要
弦が毎回頬へ強く当たり、赤く腫れたり皮膚が切れたりしている場合は、「慣れれば大丈夫」と射数を増やすことはおすすめできません。
痛みへの恐怖からさらに射形が崩れるだけでなく、同じ場所へ繰り返し衝撃が加わります。顧問や指導者へ伝え、原因を確認できるまでゴム弓や素引きへ切り替える方が安全です。
特に耳や目の周囲へ弦が強く当たった場合、痛みや視覚・聴覚の異常などがあれば練習を中止し、必要に応じて医療機関へ相談してください。
先輩だけで直そうとしないことも大切
高校2年生が1年生の相談に乗ること自体は良いことですが、弦が顔へ当たる問題は安全にも関係するため、最終的には顧問や外部指導者、有段者にも見てもらうことをおすすめします。
本人の正面から見るだけでは分からない射癖もあります。また「押手をもっとこうする」「馬手をこう動かす」と部分的な指示を重ねると、別の癖を作る場合があります。
先輩としては原因を断定するより、「頭が会で動いているように見える」「右へ毎回同じように飛ぶ」と観察結果を指導者へ伝える方が有効です。
まとめ|狙いを変える前に、弦が顔へ当たる原因と射形を直す
離れのたびに弦が顔へ当たる場合は、顔だけを避けたり、馬手を強く後ろへ飛ばしたりするのではなく、物見・胴造り・手の内・会での伸び合い・離れまで射全体を確認することが大切です。
全日本弓道連盟でも、射法八節は一つ一つが独立しているのではなく、最初から最後まで相互に関連する一連の動作であると説明しています。離れは会までの伸び合いの結果として自然に生じるものなので、離れだけを強制的に変更するのは根本解決になりにくいでしょう。[参照:全日本弓道連盟]
また矢が狙った的より毎回右へ飛ぶ場合も、すぐ「東半月」など別の狙いへ変更して帳尻を合わせるより、足踏み、胴造り、物見、押手、手の内、馬手、離れなどを順番に確認する方がおすすめです。
全日本弓道連盟が定義する「半月の狙い」は、的を矢摺籐の左側につけて狙う方法です。[参照:全日本弓道連盟 弓道用語辞典] ただし本人から見える半月だけで矢の方向を判断するのではなく、第三者に実際の狙いと矢線を確認してもらうことが重要です。
高校1年生なら、まずゴム弓や巻藁へ一度戻り、顔を動かさず会で左右へ伸び合い、自然な離れが出る状態を作るのが近道です。そのうえで的前へ戻り、正しい射形でも右へ安定して集まるのであれば、そこで初めて顧問や経験豊富な指導者と本人に適した狙いを確認するとよいでしょう。


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