天皇杯でJ1が大学・地域リーグに負けるのはなぜ?メンバー落ちの実態と歴代最大級のジャイアントキリング

サッカー

天皇杯では、J1クラブが大学チーム、JFL、地域リーグなど下位カテゴリーのチームに敗れる「ジャイアントキリング」がたびたび起こります。プロとアマチュアには選手層や予算、普段戦っているリーグのレベルに大きな差があるため、一見すると不思議な結果です。

確かに天皇杯の序盤では、J1クラブがリーグ戦の主力を休ませ、普段出場機会の少ない選手を起用するケースがあります。しかし、「J1が負けた=メンバーを落としていた」とは限りません。主力をかなり起用しながら大学チームに敗れた例もあります。

天皇杯が番狂わせの起きやすい大会である理由とともに、2009年の明治大学vsモンテディオ山形、松本山雅FCvs浦和レッズ、2018年の関西学院大学vsガンバ大阪など、歴史に残る試合を振り返ります。

天皇杯でJ1が下位カテゴリーに負ける主な理由

最大の理由は、天皇杯がホーム&アウェーではなく基本的に一発勝負だからです。リーグ戦なら長期間の成績によって実力差が表れやすい一方、一試合だけなら偶然性の影響が大きくなります。

格下側が守備を固めて0-0の時間を長くし、セットプレーやカウンターで1点を取れば、そのまま勝利することもあります。延長戦やPK戦まで持ち込めれば、カテゴリー差がさらに結果へ反映されにくくなります。

さらに大学や地域リーグの選手にとってJ1クラブとの試合はキャリアでも数少ない大舞台です。対するJ1側はリーグ戦、ルヴァンカップ、場合によってはACLなども並行しているため、心理的な意味でも同じ条件とは限りません。

J1クラブは実際にメンバーを落としているのか

天皇杯序盤ではメンバーを入れ替えるケースは確かにあります。特にリーグ戦の試合間隔が短い場合、主力選手の疲労や負傷を避けるため、若手や控え選手へ出場機会を与えることがあります。

そのため普段のJ1リーグ戦と比較して先発が5~8人変わるケースもあり、このことが番狂わせの一因になることは否定できません。また普段一緒にプレーする機会が少ない組み合わせでは、連係面で主力チームほど完成されていない場合があります。

しかし、それだけで全ての敗戦を説明することはできません。次に紹介する関西学院大学vsガンバ大阪は、まさにその代表例です。

2018年のガンバ大阪は大学相手でもかなり強いメンバーだった

2018年6月6日の天皇杯2回戦で、J1のガンバ大阪は関西学院大学に延長戦の末1-2で敗れました。JFAもこの試合を「ジャイアントキリング」として紹介しています。[参照:JFA]

ところがG大阪の先発を見ると、遠藤保仁、倉田秋、藤春廣輝、三浦弦太、ファビオ、ファン・ウィジョ、長沢駿などが名を連ねています。単純に「二軍を出したから負けた」というメンバーではありません。[参照:JFA公式記録]

関西学院大学は87分に岩本和希が先制。G大阪は89分に三浦弦太が追いつきましたが、延長前半92分に後のJリーガー・山見大登が決勝点を奪いました。大学チームがJ1の実力者を真正面から破った象徴的な試合です。

大学チームには将来のJリーガーが多数いることもある

「大学生」と聞くとプロより大幅にレベルが低いイメージを持つかもしれませんが、大学サッカー上位校には翌年以降J1やJ2へ進む選手が何人も在籍していることがあります。

2018年の関西学院大学にも山本悠樹や髙尾瑠など、後にJリーグでプレーする選手がいました。つまりチームの肩書きは大学でも、個々の能力まで大幅に劣るとは限りません。

2017年の筑波大学も典型例です。当時J1だったベガルタ仙台を3-2で破った試合では、後に日本代表となる三笘薫が2得点を挙げています。筑波大学には高嶺朋樹、戸嶋祥郎、山川哲史など後にプロとなった選手もいました。[参照:JFA公式記録]

2017年筑波大学vsベガルタ仙台も歴史的な番狂わせ

2017年6月21日の天皇杯2回戦では、筑波大学がJ1ベガルタ仙台を3-2で下しました。

筑波大は開始6分に三笘薫が先制。仙台が中野嘉大の2得点で逆転しましたが、65分に中野誠也が同点ゴール、73分に三笘が再び決めて逆転しています。[参照:JFA]

この試合で三笘と中野誠也が決めたゴールは、その大会を象徴するジャイアントキリングのゴールとしてJFAの「SURUGA I DREAM Award」に選ばれました。筑波大学はさらに次の3回戦でもJ2アビスパ福岡を2-1で破り、ベスト16まで進出しています。[参照:JFA]

歴代最大級なら2009年の明治大学vsモンテディオ山形

「天皇杯史上最大の番狂わせ」を一つだけ客観的に決める公式ランキングはありません。しかし、歴史的意味を重視するなら有力候補となるのが2009年の明治大学です。

2009年10月31日の第89回天皇杯3回戦で、明治大学は当時J1だったモンテディオ山形に3-0で完勝しました。JFAによると、これは大学チームがJ1クラブに勝利した史上初のケースでした。[参照:JFA]

単にPK戦で粘り勝ちしたのではなく、90分間で3点を奪って無失点というスコアだったことも衝撃的です。明治大学自身も「大学サッカー初の快挙」と記録しています。[参照:明治大学]

同じ2009年には地域リーグの松本山雅が浦和を撃破

2009年には、もう一つ非常に大きな番狂わせがありました。10月11日の2回戦で、当時北信越フットボールリーグ所属だった松本山雅FCがJ1浦和レッズを2-0で破っています。

JFAによると、地域リーグ所属クラブがJ1クラブを破った史上初のケースでした。[参照:JFA]

浦和側には山岸範宏、坪井慶介、細貝萌、鈴木啓太、山田暢久、原口元気、田中達也などが出場しており、この試合も単純な「若手だけで戦ったから」という結果ではありません。公式結果は松本山雅2-0浦和でした。[参照:浦和レッズ公式]

「最大」を選ぶなら明治大学と松本山雅の2009年が特に重要

試合 結果 歴史的意味
2009 明治大学 vs モンテディオ山形 3-0 大学勢として史上初のJ1撃破
2009 松本山雅FC vs 浦和レッズ 2-0 地域リーグ勢として史上初のJ1撃破
2017 筑波大学 vs ベガルタ仙台 3-2 三笘薫2得点、大学勢の象徴的アップセット
2018 関西学院大学 vs ガンバ大阪 2-1 延長 主力級多数のG大阪を大学が撃破
2019 Honda FC vs 浦和レッズ 2-0 JFLクラブが前年天皇杯王者を撃破

カテゴリー差そのものを重視するなら地域リーグの松本山雅、大学という立場と3-0という内容を重視するなら明治大学が「最大級」と評価しやすいでしょう。

どちらも2009年に起きていることから、第89回天皇杯はジャイアントキリングの歴史を語るうえで特に重要な大会です。

2019年Honda FCの浦和撃破も非常に大きな番狂わせ

2019年9月25日のラウンド16では、JFLのHonda FCが浦和レッズを2-0で破りました。しかも会場は浦和の本拠地である埼玉スタジアム2002です。

試合は終盤まで0-0でしたが、83分に富田湧也、87分に原田開が得点。Honda FCが前年の天皇杯王者を破って準々決勝へ進出しました。[参照:JFA公式記録]

JFAもこの試合を「ジャイアントキリング」と紹介しています。Honda FCはプロリーグへ参加していないものの、JFL屈指の強豪として長期間活動しており、単純な一般アマチュアチームとは違う実力を持つクラブです。[参照:JFA]

勝ってはいないが2003年市立船橋高校vs横浜F・マリノスも伝説

天皇杯史上の衝撃という意味では、敗れた側にもかかわらず必ず名前が挙がる試合があります。2003年12月14日の横浜F・マリノスvs市立船橋高校です。

この年の横浜F・マリノスはJリーグ年間王者。それに対して市立船橋は文字通り高校生のチームでした。しかし試合は90分と延長を終えて2-2。最後はPK戦で横浜FMが4-1で勝利しています。[参照:JFAアーカイブ]

正式には市立船橋の勝利ではないため「最大のジャイアントキリング」には含められませんが、高校生がその年のJリーグ王者をPK戦まで追い詰めたという意味では、天皇杯史上最大級の事件の一つです。

なぜJ1側は格下相手ほど苦しくなることがあるのか

心理面も無視できません。J1側は「勝って当然」と見られ、先制されるほど焦りが強くなります。一方、大学や地域リーグ側は失うものが少なく、0-0の時間が続くだけでも自信が高まります。

例えば前半を0-0で終えると、格下側は「本当に勝てるかもしれない」と感じ始めます。逆にJ1側には「このままではまずい」というプレッシャーが増します。すると攻撃時に人数をかけすぎ、カウンターを受けるリスクも高くなります。

一発勝負では、この心理的な流れがリーグ戦以上に重要になります。

大学チームは連係面でJ1控え組を上回る場合もある

個々の選手能力ではJ1側が上でも、チームとしての完成度では別の話になることがあります。

大学チームは普段から同じメンバーでリーグ戦や大学選手権を戦っています。一方、J1側がローテーションすると「リーグ戦では同時に先発することが少ない11人」で試合を始める場合があります。

その結果、守備の距離感やプレスのタイミングなどで大学側の方が統一されていることもあります。サッカーでは個人能力だけでなく11人の連動が重要なので、この差は一発勝負では無視できません。

大学生でもフィジカル的にはほぼ成人選手

大学生は18~22歳が中心で、身体的にはすでに成人です。高校生とプロほど大きなフィジカル差がない場合もあります。

特に関東大学リーグや関西学生リーグの強豪には、年代別日本代表経験者やJクラブ加入内定選手が多数在籍します。「大学」というカテゴリー名から想像するほど、トップ大学とプロの控え選手との個人能力差は大きくないケースがあります。

そのため大学トップクラスがベストメンバーで戦い、J1側が少しでも受け身になれば番狂わせは十分起こり得ます。

JFLのHonda FCは一般的な「格下」と少し違う

天皇杯ではHonda FCがJクラブを倒すことが何度もあります。Honda FCは企業チームでJリーグへ参入していませんが、JFLでは長年トップクラスの成績を残してきました。

JFAも2019年のチーム紹介で「アマチュアの王者」と表現し、過去にもJクラブの強豪を破った実績を紹介しています。[参照:JFA]

そのためJ1vsHonda FCについては「プロvs普通のアマチュア」というイメージより、「J1vs国内トップクラスのノンプロクラブ」と考えた方が実態に近いでしょう。

天皇杯ではどれくらいメンバーを入れ替えるべきなのか

これはJ1クラブにとって難しい問題です。全試合をベストメンバーで戦えばリーグ戦への疲労が大きくなり、主力選手の故障リスクも増えます。

一方で大量にメンバーを入れ替えれば、格下でも完成度の高い相手に敗れる危険があります。そのため若手を起用しつつ経験豊富な選手も数人残すなど、バランスを取るチームが一般的です。

それでも番狂わせが起きるのが天皇杯です。実際、2018年のG大阪のように主力級を多く起用していても大学に敗れることがあります。

リーグ順位差と一試合の勝率は別物

仮にJ1クラブが大学チームに対して10試合すれば8~9試合勝てる実力差があったとしても、天皇杯ではそのうちの「負ける1試合」が起きればそこで終了です。

サッカーは野球やバスケットボールと比較して得点が少ない競技です。強いチームが20本シュートを打って無得点、格下が3本のうち1本を決めて1-0で勝つことも理論上十分可能です。

この低得点競技という性質も、サッカーでジャイアントキリングが起こりやすい重要な理由です。

歴代の番狂わせを評価する基準

「歴代最大」を決める場合、単純なカテゴリー差だけではなく複数の基準があります。

評価基準 代表例
カテゴリー差 2009年 松本山雅vs浦和
大学勢の歴史的快挙 2009年 明治大学vs山形
スコアの衝撃 明治大学3-0山形
相手のメンバーの強さ 2018年 関西学院大学vsG大阪
高校生というカテゴリー差 2003年 市立船橋vs横浜FM ※PK負け
大会王者撃破 2019年 Honda FCvs浦和

そのため「史上最大は絶対にこの試合」と断定するより、何を基準にするかを明確にした方が正確です。

まとめ|J1敗退はメンバー落ちだけが理由ではない

天皇杯でJ1クラブが大学、JFL、地域リーグのクラブへ敗れる際、リーグ戦からメンバーを入れ替えているケースは確かにあります。日程が過密なJ1クラブにとって、序盤戦は若手や控え選手を起用する貴重な機会でもあります。

しかし、「メンバーを落としたから負けただけ」と考えるのは正確ではありません。2018年のガンバ大阪は遠藤保仁、倉田秋、藤春廣輝、三浦弦太、ファン・ウィジョらを先発させながら、関西学院大学に1-2で敗れています。[参照:JFA]

歴代最大級の番狂わせとして特に重要なのは2009年です。明治大学がモンテディオ山形を3-0で破り、大学勢として史上初めてJ1クラブに勝利。同じ大会では当時地域リーグ所属だった松本山雅FCも浦和レッズを2-0で破り、地域リーグ勢として史上初のJ1撃破を達成しました。[参照:JFA・明治大学][参照:JFA・松本山雅]

大学勢では2017年の筑波大学3-2ベガルタ仙台、2018年の関西学院大学2-1ガンバ大阪も代表的です。また2019年にはJFLのHonda FCが前年天皇杯王者の浦和レッズを2-0で破っています。

そして勝利こそしていないものの、2003年には高校生の市立船橋高校がその年のJリーグ王者・横浜F・マリノスと延長まで2-2で戦い、PK戦まで追い詰めました。[参照:JFAアーカイブ]

天皇杯では、J1側のローテーション、一発勝負、大学上位校の高い選手能力、格下側の強いモチベーション、セットプレーやカウンター、そしてサッカーそのものが低得点競技であることが重なります。だからこそ、カテゴリーだけを見れば到底起こりそうにない結果が現実に起こります。その「何が起こるか分からない」性質こそ、天皇杯が長くジャイアントキリングの舞台として親しまれている大きな魅力といえるでしょう。

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