朝倉未来選手の打撃を振り返ると、2022年のフロイド・メイウェザー戦では第2ラウンド終盤まで戦った一方、2023年のYA-MAN戦では第1ラウンド1分17秒でKOされています。この結果だけを見ると、「世界最高峰のボクサーを相手に2Rまで戦えたのに、その約1年後にYA-MANへ77秒で倒されたのだから打撃能力が落ちたのでは」と感じるのも自然です。
ただし、両試合は対戦相手だけでなく、ルール、グローブ、使える攻撃、距離、試合展開が大きく異なります。そのため、試合時間だけを比較して朝倉選手の打撃能力が明確に弱体化したと判断するのは難しいです。
むしろYA-MAN戦では、オープンフィンガーグローブを使用するキックボクシングルールへの対応、YA-MANの対策、最初のダウンを奪われた後の展開など、複数の要因を分けて考える必要があります。ここではメイウェザー戦とYA-MAN戦の違いを整理しながら、朝倉未来選手の打撃が本当に弱くなったといえるのかを考察します。
- メイウェザー戦は2022年9月のスペシャルエキシビション
- YA-MAN戦は2023年11月、1R1分17秒KO
- 最大の違いは試合ルールとグローブ
- YA-MANはオープンフィンガーグローブ戦を得意としていた
- MMAの打撃とキックボクシングの打撃は同じではない
- YA-MANは朝倉未来の「癖」を具体的に研究していた
- メイウェザー戦ではメイウェザーの戦い方も考慮する必要がある
- 「メイウェザーに2R持った」は打たれ強さの証明とは限らない
- YA-MAN戦は最初からKOを狙う特殊な条件だった
- 朝倉未来の打たれ強さが落ちていた可能性は完全には否定できない
- 「打撃が弱くなった」と「打たれ弱くなった」は別問題
- その後の試合を見ると「完全に打撃能力が崩壊した」とも言いにくい
- ただし平本蓮戦でも1R TKO負けしている点は考慮できる
- KO負けは相手の強さも同時に評価する必要がある
- もし本当に弱体化を判断するなら複数の試合を見る必要がある
- メイウェザーとYA-MAN戦の違いを比較
- まとめ:YA-MAN戦だけで朝倉未来の打撃弱体化を断定するのは難しい
メイウェザー戦は2022年9月のスペシャルエキシビション
朝倉未来選手とフロイド・メイウェザー選手が対戦したのは、2022年9月25日の「超RIZIN」です。試合はRIZINスタンディングバウトルールによる3分3ラウンドのスペシャルエキシビションマッチとして行われました。
公式結果では、メイウェザー選手が第2ラウンド終了間際に右のパンチを当て、朝倉選手がダウン。レフェリーが試合を止めています。RIZIN公式では「2R 3分15秒 TKO レフェリーストップ」と記録されています。エキシビションのため公式戦績上は勝敗なしという扱いです。[参照]
つまり「メイウェザー相手に2ラウンド耐え切った」というより正確には、2ラウンド終盤にメイウェザーの一撃でダウンし、そこでストップされた試合です。朝倉選手がメイウェザーのパンチを受け続けながら長時間耐え抜いた試合だった、という解釈とは少し違います。
YA-MAN戦は2023年11月、1R1分17秒KO
YA-MAN選手との試合は2023年11月19日の「FIGHT CLUB」で行われました。結果はYA-MAN選手の第1ラウンド1分17秒KO勝ちです。RISE公式プロフィールでもYA-MAN選手の朝倉未来戦は「1R KO」と記録されています。[参照]
この試合では序盤からYA-MAN選手がプレッシャーをかけ、右ストレートで最初のダウンを奪いました。その後、立ち上がった朝倉選手へさらに連打を浴びせてKOしています。試合時間だけならメイウェザー戦より大幅に短い77秒でした。
ただし、この77秒という結果をそのまま「メイウェザーよりYA-MANのほうが倒す能力が高かった」「朝倉の打たれ強さが1年間で大幅に低下した」と結論づけることはできません。格闘技では相手との相性や一発のクリーンヒットによって試合時間が大きく変化するためです。
最大の違いは試合ルールとグローブ
メイウェザー戦とYA-MAN戦を比較するとき、最も重要な違いの一つがルールです。FIGHT CLUBでは全試合でオープンフィンガーグローブを使用し、パンチだけでなくキックとヒザ蹴りも認められていました。YA-MAN対朝倉未来は70kg契約、3分3ラウンドで行われています。[参照]
通常のボクシンググローブと比較すると、オープンフィンガーグローブは小さく、ガードした際の隙間も生まれやすくなります。またキックを警戒する必要があるため、ボクシングだけの試合と同じ構え・距離で戦うこともできません。
つまりメイウェザー戦とYA-MAN戦は、同じ「立ち技」でも別競技に近い部分があります。単純に「何ラウンド持ったか」だけで打撃能力を比較するのは適切ではありません。
YA-MANはオープンフィンガーグローブ戦を得意としていた
YA-MAN選手は当時、RISEオープンフィンガーグローブマッチの-65kg級王者でした。つまりFIGHT CLUBで採用された形式は、YA-MAN選手が非常に経験を積んでいたルールです。
RISE公式の戦績を見ると、朝倉戦以前にもオープンフィンガーグローブを使う試合でKOを重ねています。2022年には伊藤澄哉選手、芦澤竜誠選手を1ラウンドKOするなど、一発の強さと乱打戦での強さをすでに示していました。[参照]
一方、朝倉選手にとってFIGHT CLUBはキックボクシングルールでの初戦でした。MMAでは立ち技を得意としていても、純粋なキックボクサーとしての経験値ではYA-MAN選手に分があります。
MMAの打撃とキックボクシングの打撃は同じではない
朝倉未来選手はMMAではストライカーとして高い評価を受けてきました。しかしMMAで強い打撃を持つことと、キックボクシングで同じように強いことは完全には一致しません。
MMAではタックルを警戒する必要があり、組み技へ移行する可能性もあります。そのため構え、重心、距離、ガードの位置がキックボクシングとは変わります。
YA-MAN選手自身も試合前、朝倉選手について打撃スキルは高いと評価しつつ、MMAとキックでは距離が大きく違うため、経験したことのない距離に戸惑う可能性があるという趣旨の分析をしていました。[参照]
YA-MANは朝倉未来の「癖」を具体的に研究していた
YA-MAN戦が早く終わった大きな理由として、事前の対策も見逃せません。試合後、YA-MAN選手は朝倉選手が右フックを返す動きに注目していたことを説明しています。
具体的には、外側からフックを見せることで朝倉選手の右フックを誘い、それをガードしながら右ストレートを当てる作戦を準備していました。この狙いが試合で機能し、最初の大きなダウンにつながりました。[参照]
格闘技では、このように相手の癖を読んで用意した攻撃が序盤にクリーンヒットすると、実力が近い選手同士でも一瞬で試合が終わります。そのため早期KO=総合的な打撃能力が極端に下がった、とは限りません。
メイウェザー戦ではメイウェザーの戦い方も考慮する必要がある
メイウェザー選手は50戦50勝の公式戦績を持つ歴史的ボクサーですが、朝倉戦は公式ボクシングマッチではなくエキシビションでした。
またメイウェザー選手は、常に最初の数十秒で相手を倒しに行くタイプではありません。相手の距離や反応を確認しながら戦い、タイミングを見て正確なカウンターを当てることで知られる選手です。
実際の朝倉戦でも、第1ラウンドは相手のパンチを観察しながら距離を取り、第2ラウンドになると徐々に攻撃を強めています。そして最後は朝倉選手の攻撃に合わせた右でダウンを奪いました。[参照]
「メイウェザーに2R持った」は打たれ強さの証明とは限らない
格闘技を見るときによくある誤解が、「強い相手に長い時間戦えた=打たれ強い」という考え方です。試合時間は耐久力だけでは決まりません。
例えばA選手が世界王者と10分戦い、B選手に1分でKOされたとしても、それだけでB選手のパンチが世界王者以上だったとは言えません。世界王者が序盤は観察に使っていたのに対し、B選手は開始直後からKOを狙って突進した可能性があるからです。
メイウェザー戦とYA-MAN戦も同様で、メイウェザーがどういうペースで戦ったのか、YA-MANがどの程度序盤から倒しに来たのかを考える必要があります。
YA-MAN戦は最初からKOを狙う特殊な条件だった
FIGHT CLUBのメインカードには判定がなく、3ラウンド終了までKO・TKOがなければドローというルールが設定されていました。[参照]
通常のキックボクシングなら、ポイントを取って判定勝ちすることも重要です。しかしこの試合では判定勝ちが存在しないため、両者にとって相手を倒すことの価値が非常に高くなります。
YA-MAN選手はもともと前へ出て打ち合うスタイルであり、さらにKO決着を求める大会ルールが組み合わさったことで、試合開始直後から激しい展開になる条件が整っていました。
朝倉未来の打たれ強さが落ちていた可能性は完全には否定できない
一方で、「まったく弱体化していなかった」と断定することもできません。アスリートは年齢、過去のダメージ、コンディション、減量、練習内容などによってパフォーマンスが変化します。
朝倉選手はメイウェザー戦の後もMMAの試合を重ね、2023年7月にはヴガール・ケラモフ戦で敗れ、その約4か月後にYA-MAN戦へ出場しています。その時点の身体的・精神的なコンディションが全盛期と完全に同じだったかどうかは外部から判断できません。
したがって「以前より打たれ弱くなっていた可能性」は仮説としてはあり得ますが、YA-MAN戦の77秒KOという1試合だけを根拠に医学的・能力的な劣化を断定することはできません。
「打撃が弱くなった」と「打たれ弱くなった」は別問題
ここも整理しておきたいポイントです。「打撃が弱体化した」という言葉には、攻撃能力と防御能力の2つが混在しています。
| 能力 | 意味 |
|---|---|
| 攻撃力 | パンチやキックを当てて相手へダメージを与える能力 |
| ディフェンス | 相手の攻撃を避ける、ガードする能力 |
| 打たれ強さ | クリーンヒットを受けても戦い続ける能力 |
| 距離感 | 自分だけ当てられる位置を作る能力 |
| 反応速度 | 相手の攻撃へ素早く対応する能力 |
YA-MAN戦で問題になったのは、単純なパンチ力の低下というより、相手の狙った右を受けたこと、その後のラッシュから立て直せなかったことです。
そのため「朝倉の打撃そのものが全部弱くなった」と表現するより、少なくともYA-MAN戦ではディフェンスと距離への対応がうまくいかなかったと考えるほうが具体的です。
その後の試合を見ると「完全に打撃能力が崩壊した」とも言いにくい
YA-MAN戦以降の朝倉選手の試合も、弱体化を考える材料になります。2024年7月には平本蓮選手に1ラウンドTKO負けしましたが、その後2025年5月には鈴木千裕選手に3ラウンドTKO勝ち、同年7月にはクレベル・コイケ選手に判定勝ちしています。
RIZIN公式の戦績でも、鈴木戦は3R1分56秒TKO勝利、クレベル戦は3ラウンド判定勝利と記録されています。[参照]
特に鈴木千裕選手は強烈な打撃を武器にするファイターです。その相手へ勝利していることを考えると、YA-MAN戦を境に朝倉選手の打撃能力が一方的に崩れ続けた、と単純化することは難しいでしょう。
ただし平本蓮戦でも1R TKO負けしている点は考慮できる
一方、2024年7月の平本蓮戦では、第1ラウンド2分18秒でTKO負けしています。RIZIN公式にもこの結果が記録されています。[参照]
YA-MAN戦に続いて立ち技を得意とする相手へ早いラウンドで止められたため、この頃の朝倉選手について「以前より打撃戦で危うい場面が増えた」と感じたファンがいたのは理解できます。
ただし平本選手もボクシング・キックボクシングをバックボーンに持つ高水準のストライカーです。二つのKO負けだけから、反応速度や耐久力がどの程度低下したのかまで数値化することはできません。
KO負けは相手の強さも同時に評価する必要がある
負けた側だけを見て「弱くなった」と考えると、勝った選手の技術を過小評価してしまいます。
YA-MAN選手は朝倉戦へ向けて右フックを返す癖まで分析し、その動きに右ストレートを合わせる作戦を作っていました。その攻撃を実際に成功させています。[参照]
つまり77秒KOは朝倉選手側の問題だけで起きたのではなく、YA-MAN選手の研究と実行力が高かった結果でもあります。
もし本当に弱体化を判断するなら複数の試合を見る必要がある
選手の衰えを判断する場合、本来はKOされた回数だけではなく、複数試合を通じた変化を見る必要があります。
例えば「以前なら避けていた攻撃を繰り返し受けるようになった」「相手の踏み込みへの反応が明確に遅くなった」「攻撃後にガードへ戻る速度が落ちた」「以前より長時間高いペースを維持できない」といった傾向が継続すれば、パフォーマンス低下を考える材料になります。
反対に一度KOされた後でもトップ選手を相手に打撃戦で勝てているなら、単純な右肩下がりとは判断しにくくなります。
メイウェザーとYA-MAN戦の違いを比較
2試合を整理すると、単純比較が難しい理由がよく分かります。
| 項目 | メイウェザー戦 | YA-MAN戦 |
|---|---|---|
| 開催年 | 2022年 | 2023年 |
| 形式 | スペシャルエキシビション | FIGHT CLUB |
| 主な攻撃 | パンチ中心のスタンディングルール | パンチ・キック・ヒザ |
| グローブ | ボクシング型 | オープンフィンガーグローブ |
| 相手の特徴 | 世界最高峰のボクシング技術 | OFGキックのスペシャリスト |
| 結果 | 2R TKOストップ | 1R1分17秒KO負け |
同じ打撃競技でも前提条件が違うため、ラウンド数だけを使った比較はあまり意味を持ちません。
まとめ:YA-MAN戦だけで朝倉未来の打撃弱体化を断定するのは難しい
朝倉未来選手は2022年のメイウェザー戦で第2ラウンド終盤にTKOストップされ、2023年のYA-MAN戦では第1ラウンド1分17秒でKOされています。試合時間だけなら確かにYA-MAN戦のほうが大幅に早く決着しています。
しかし両試合はルールが異なります。YA-MAN戦はオープンフィンガーグローブを使い、パンチ・キック・ヒザが認められる70kg契約のキックボクシングルールでした。しかもYA-MAN選手は当時RISEのオープンフィンガーグローブマッチ王者で、朝倉選手の癖を事前に研究して右ストレートを当てる作戦を準備していました。[参照]
一方のメイウェザー戦はエキシビションで、メイウェザー選手も開始直後から無理にKOを狙ったわけではありません。そのため、「メイウェザーに2R持ったのにYA-MANに77秒で負けた=1年間で打撃が大幅に弱くなった」という計算は成立しません。
ただし、YA-MAN戦やその後の平本蓮戦で早期KO・TKO負けを経験しているため、「以前より打撃戦で危うく見える」と感じる根拠がまったくないわけでもありません。ただ、それが加齢やダメージによる明確な弱体化なのか、対戦相手・戦術・コンディションによるものなのかは外部から断定できません。
その後、2025年には鈴木千裕選手へのTKO勝利やクレベル・コイケ選手への判定勝利も記録しています。したがって現在までの経過を含めるなら、YA-MAN戦は朝倉未来の打撃が完全に衰えた証拠というより、OFGキックというYA-MANの得意な条件で、研究された攻撃を序盤にクリーンヒットされて一気に決着した試合と捉えるのが最もバランスの取れた見方でしょう。


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