2018年のRIZIN.11で発表されながら実現しなかった、五味隆典vsアンディ・サワー。PRIDEライト級王者として一時代を築いた五味と、K-1 WORLD MAXを2度制したサワーという組み合わせだけに、実現していれば非常に興味深い一戦でした。
しかも予定されていたのはキックボクシングではなく、73.0kg契約・5分3RのMMA特別ルールです。純粋な打撃技術だけを比較すればサワーに大きな強みがありますが、MMAとして考えると評価は変わります。この記事では、当時の両者の実績、打撃、テイクダウン、グラウンド、年齢やコンディションまで踏まえ、幻となった一戦を分析します。
五味隆典vsアンディ・サワーはRIZIN.11で実際に発表されていた
RIZINは2018年6月8日、同年7月29日のRIZIN.11で五味隆典とアンディ・サワーが対戦すると正式発表しました。ルールはMMA特別ルール、73.0kg契約、5分3Rとされていました。
発表会見で五味はサワーのコンビネーションやガードを評価する一方、テイクダウンについて聞かれると、グラウンドで殴ってKOする選択肢にも言及しています。つまり、五味自身もサワーと真正面からキックボクシングをするだけではなく、MMAの技術を使うことを想定していたことが分かります。
一方のサワーも、五味を世界有数のストライカーと評価し、互いにKOを狙うスタイルなので噛み合う試合になるとの趣旨のコメントを残していました。[参照:RIZIN公式]
試合が中止になった理由はアンディ・サワーのONEとの契約
期待されたカードでしたが、サワーがONE Championshipと契約したことで実現しませんでした。その後、五味の対戦相手はメルヴィン・ギラードに変更されています。
サワーは当時、キックボクシング界では説明不要のトップクラスの実績を持つ選手でした。K-1 WORLD MAXで2005年と2007年に優勝しており、シュートボクシングでも長く活躍しています。
一方でMMAはサワーの本職ではありません。2015年からMMAに挑戦していたものの、本人もRIZINの発表時に「MMAでは、なかなか結果が出せていません」と認めていました。この点が五味戦を予想するうえで非常に重要になります。
スタンドの技術ならアンディ・サワーが怖い
純粋な立ち技の完成度を比較するなら、サワーを高く評価するのが自然でしょう。長年トップレベルのキックボクシングとシュートボクシングで戦ってきたため、パンチのコンビネーション、ローキック、ヒザ、距離管理などの引き出しがあります。
五味自身も試合発表時、サワーについてコンビネーションがうまくガードも良いと評価し、ヒザや蹴り、右ストレートを警戒していました。これは単発のパンチ力だけではなく、サワーが複数の攻撃を組み合わせられることへの警戒だったと考えられます。
ただし、MMAの打撃とキックボクシングの打撃は同じではありません。テイクダウンを警戒すれば構えや重心が変わり、キックを出した瞬間にタックルされる可能性もあります。サワーが立ち技で優位だから、そのままMMAでも有利とは限らないわけです。
MMAとして見ると五味隆典に大きなアドバンテージがある
このカードを予想する際に最も重要なのは、五味が単なる強打者ではなく、長年MMAのトップ戦線で戦ってきた選手だということです。PRIDE時代の五味は強烈なボクシングが印象的ですが、バックボーンにはレスリングがあり、MMAに必要なテイクダウン、スクランブル、パウンドなどを長期間経験しています。
サワーもMMA経験がゼロだったわけではありません。しかし、予定されていた2018年時点でのMMA経験値には明確な差がありました。打撃戦で危険を感じた五味には「組む」「倒す」「上から殴る」という別ルートがあります。
例えばサワーがローキックやパンチの連係でリズムを作り始めた場合、五味がそのまま付き合う必要はありません。組み際からテイクダウンし、トップポジションを取れば、サワーが得意とする立ち技そのものを封じられます。勝つための選択肢の多さでは五味が上だったと評価できます。
それでも五味隆典の圧倒的有利とは言い切れない理由
一方で、2018年当時という時間軸を無視することはできません。全盛期のPRIDE王者・五味と全盛期のK-1王者・サワーを戦わせるという話ではなく、実際にRIZIN.11が予定された時点の両者を比較する必要があります。
五味は1978年生まれ、サワーは1982年生まれで、年齢面ではサワーの方が若い状況でした。また五味はRIZIN参戦前までUFCで連敗しており、2017年末の矢地祐介戦でも敗れています。全盛期ほどの安定感がなかったことは考慮すべきでしょう。
特に五味がサワーの土俵に乗って打ち合った場合は危険です。五味には一撃で流れを変えるパンチがありますが、技術的な打撃戦が長時間続けばサワーがコンビネーションで上回る展開も十分考えられます。
両者の勝ち筋を比較するとどうなるか
| 比較項目 | 五味隆典 | アンディ・サワー |
|---|---|---|
| MMA経験 | 非常に豊富 | 五味より少ない |
| 純粋なキック技術 | 強力だがMMA型 | 世界最高峰の実績 |
| パンチの一発 | 大きな武器 | 十分に強力 |
| レスリング | 大きな強み | 不利になりやすい |
| グラウンド経験 | 豊富 | 相対的に少ない |
| 年齢面 | 当時39歳 | 当時35歳 |
| 主な勝ち筋 | パンチ、TD、パウンド | 打撃、コンビネーション、KO |
サワーの理想は、テイクダウンを切りながら距離を維持し、パンチと蹴りのコンビネーションで五味を削る展開でしょう。五味が熱くなって打ち合えば、サワーの勝率は大きく上がります。
五味の理想は逆です。序盤はパンチの圧力を利用しながらサワーにテイクダウンを意識させ、組みから倒してパウンドへ移行する形です。打撃とテイクダウンの二択を作れれば、サワーは本来の打撃を出しにくくなります。
予想するなら五味隆典をやや有利と見る
以上を総合すると、筆者が2018年当時の条件で勝敗を予想するなら、五味隆典をやや有利と評価します。イメージとしては五味6、サワー4程度です。ただし、これは実現しなかった試合についての分析であり、実際の勝敗を断定できるものではありません。
最大の理由はMMA経験の差です。サワーが得意な打撃ではサワー優位の局面がある一方、五味はパンチだけでなくレスリングとグラウンドを使えます。総合格闘技では「相手の一番得意な場所で戦わなくていい」という点が極めて大きな意味を持ちます。
反対に、五味がテイクダウンをほとんど狙わず「世界的キックボクサーと打ち合いたい」という試合を選択した場合、評価はかなり五分に近づきます。実際、五味は会見で気の向くまま戦うという趣旨の発言もしており、そこがこのカードの面白さでもありました。
まとめ
五味隆典vsアンディ・サワーは、2018年7月29日のRIZIN.11で73.0kg契約のMMA特別ルールとして正式発表されながら、サワーのONE Championshipとの契約によって幻となったカードです。
純粋なキックボクシングならサワーの高度なコンビネーションと蹴りが大きな脅威になります。しかしMMAでは、長年総合格闘技のトップレベルを経験し、レスリングという武器も持つ五味の方が戦術的な選択肢は多かったと考えられます。
そのため予想は五味やや有利。ただし、スタンド中心ならサワーにも十分な勝機があり、五味の豪腕とサワーのコンビネーションが交錯する非常にスリリングな試合になった可能性があります。結果を知ることが永遠にできないからこそ、RIZIN史に残る「幻のカード」の一つとして想像する面白さがある対戦です。


コメント