大相撲の力士は、競技特性から大きな体格を維持する必要があり、現役中は一般的な成人より体重が大きくなりやすい生活を送ります。そのため、肥満と関連の深い2型糖尿病、高血圧、高尿酸血症・痛風などの生活習慣病が問題になることがあります。
では、現役時代にこうした病気を発症した力士は、引退後も一生同じ状態なのでしょうか。結論としては、引退後に体重が減り、食事量や飲酒量、運動習慣などが変わることで数値が大きく改善する人はいます。一方、一度発症した病気が必ず完全に消えるわけではなく、治療や定期検査を長期間続ける必要がある人もいます。
糖尿病、高血圧、痛風では「改善」の意味もそれぞれ異なります。薬が不要になるほど改善するケースがある一方、すでに腎臓や血管などに障害が生じていれば、体重を落としただけでは元の状態へ完全には戻らないことがあります。ここでは、力士の引退後を例に、それぞれの病気がどのように変化し得るのかを整理します。
- 力士だから引退後も必ず病気が続くわけではない
- 2型糖尿病は減量によって大きく改善することがある
- 糖尿病は「治った」と簡単に考えないほうがよい
- すでに糖尿病の合併症があれば話は別
- 高血圧も減量・減塩・運動によって改善しやすい
- 高血圧でも薬が不要になる人と必要な人がいる
- 血圧が下がっても過去のダメージが全部消えるわけではない
- 痛風は「発作」と「高尿酸血症」を分けて考える
- 引退後の減量は尿酸値の改善にも有利
- 痛風は引退後に発作が起きなくなることもある
- 痛風の薬は発作がなくなったから勝手に中止しない
- 引退直後の急激な減量にも注意が必要
- 力士の身体は「単なる肥満」とも少し違う
- 引退後は「食事量だけ昔のまま」が危険
- 逆に引退後のほうが健康管理しやすくなる面もある
- 三つの病気は同時に改善することもある
- 病気ごとの引退後の変化を整理
- 一番怖いのは症状がないまま進行すること
- 現役中から管理したほうが引退後にも有利
- 引退後に健康になるかどうかは「その後の生活」が大きい
- まとめ:引退後に大きく改善する人もいるが、一生の管理が必要な人もいる
力士だから引退後も必ず病気が続くわけではない
まず、「力士時代に生活習慣病になったら一生そのまま」という単純な話ではありません。2型糖尿病、高血圧、高尿酸血症はいずれも体重、食生活、飲酒、身体活動などの影響を強く受けます。
現役を引退すると、競技のために大きな身体を維持する必要がなくなります。摂取エネルギーを減らし、体重を適正な方向へ落とし、無理のない運動を続けることで、血糖値、血圧、尿酸値が改善する可能性があります。
ただし個人差は大きく、遺伝的な体質、年齢、現役時代の罹病期間、腎機能、肝機能、心血管疾患の有無などによって引退後の経過は変わります。
2型糖尿病は減量によって大きく改善することがある
力士に問題となりやすい糖尿病として考えられるのは、肥満やインスリン抵抗性と関係する2型糖尿病です。体重が増えるとインスリンが効きにくくなり、血糖値が上昇しやすくなります。
そのため引退後に適切な減量ができれば、インスリンの効き方が改善し、血糖値が下がることがあります。糖尿病情報センターも、肥満のある糖尿病患者では体重管理が重要であり、体重がかなり多い場合にはまず現在の体重の5%減量を目標の一つとして示しています。[参照]
例えば現役時代に160kgあった人が、引退後に食事を調整しながら120kg、100kgと段階的に体重を減らした場合、同じ食生活を続ける場合より血糖管理が改善する可能性があります。
糖尿病は「治った」と簡単に考えないほうがよい
2型糖尿病では、減量や生活改善によって薬を使用しなくても血糖値が一定期間正常域に保たれることがあります。こうした状態は一般に「寛解」と呼ばれることがあります。
しかし、寛解したからといって「今後絶対に糖尿病にならない身体へ戻った」という意味ではありません。再び体重が増えたり、加齢によってインスリン分泌能力が低下したりすると血糖値が再上昇する可能性があります。
引退して血糖値が正常化しても、自己判断で「完治した」と決めず、定期的な血液検査を続けることが重要です。
すでに糖尿病の合併症があれば話は別
糖尿病で特に注意したいのは、血糖値そのものだけではなく長期間の高血糖による合併症です。
糖尿病が長く続くと、網膜症、腎症、神経障害のほか、心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化性疾患のリスクも問題になります。糖尿病情報センターも、合併症が見つかった場合には早期に検査・治療を受け、生活習慣を見直すことが大切だとしています。[参照]
引退後に血糖値が改善しても、すでに進んだ腎障害や網膜症などが完全に元通りになるとは限りません。この意味では「病気の数値が改善すること」と「長年の影響がすべて消えること」は分けて考える必要があります。
高血圧も減量・減塩・運動によって改善しやすい
高血圧も体重と深い関係があります。体重が多い人では、減量によって血圧が低下することがあります。
日本高血圧学会は高血圧対策として、体重を減らすこと、適度な運動、節酒、減塩、野菜や果物を多く摂ることなどを挙げています。[参照]
現役力士が引退して食事量を減らし、体重を落とし、塩分摂取量も減らせば、血圧が以前より下がる可能性は十分あります。
高血圧でも薬が不要になる人と必要な人がいる
高血圧の程度が比較的軽く、肥満や塩分過多が大きな原因だった場合、生活習慣の改善によって血圧が大幅に低下することがあります。
一方、年齢、遺伝的体質、腎臓病、血管の変化などが関係している場合、体重を減らしても高血圧が残ることがあります。その場合は引退後も降圧薬が必要です。
日本高血圧学会も、生活習慣の改善で血圧は下がる一方、多くの高血圧患者では薬物治療も必要になることを説明しています。[参照]
血圧が下がっても過去のダメージが全部消えるわけではない
高血圧が長期間続くと、心臓、脳、腎臓、血管へ負担が掛かります。
引退後に血圧が正常化すれば将来のリスクを下げるうえで大きな意味がありますが、それ以前に起きた心肥大や腎機能低下、動脈硬化などが完全に消失するとは限りません。
そのため現役中に高血圧を指摘された場合は、引退まで放置するのではなく、その時点から治療することが重要です。
痛風は「発作」と「高尿酸血症」を分けて考える
痛風については少し仕組みが異なります。痛風は血液中の尿酸値が高い状態が続き、尿酸の結晶が関節などに蓄積することで激しい炎症を起こす病気です。
足の親指などが突然激しく痛む「痛風発作」が有名ですが、発作がない時期でも高尿酸血症が続いている場合があります。
したがって「最近痛風発作がない=病気が完全に消えた」とは限りません。重要なのは血清尿酸値を適切に管理することです。
引退後の減量は尿酸値の改善にも有利
痛風・尿酸財団は、痛風患者では肥満が多く、肥満度が大きいほど尿酸値が高くなる傾向があるとして、標準体重を目指すことの重要性を説明しています。[参照]
そのため現役時代より適切に体重を落とすことは、引退後の高尿酸血症対策として有効です。さらに飲酒量を減らすことや、バランスの取れた食生活も重要になります。
痛風・尿酸財団は日常生活上の注意として、肥満の解消、アルコールを控えること、水分摂取、軽い有酸素運動などを挙げています。[参照]
痛風は引退後に発作が起きなくなることもある
引退後に体重、食事、飲酒習慣が改善し、尿酸値を適切に管理できれば、痛風発作が長期間起こらなくなる人もいます。
一方、高尿酸血症には生活習慣だけでなく遺伝的要因や腎臓からの尿酸排泄能力も関係しています。痛風・尿酸財団も尿酸値には多数の遺伝的要因が関係することを説明しています。[参照]
そのため「痩せれば全員痛風が治る」とはいえません。引退後も尿酸降下薬を継続する人はいます。
痛風の薬は発作がなくなったから勝手に中止しない
痛風発作が数年間なくても、薬によって尿酸値が抑えられているだけという場合があります。
自己判断で薬を中断すると尿酸値が再び上昇し、時間が経ってから痛風発作を繰り返す可能性があります。
薬の減量や中止を検討できるかどうかは、尿酸値、腎機能、発作歴、尿路結石などを踏まえて医師が判断します。
引退直後の急激な減量にも注意が必要
体重を落とせば健康に良いからといって、引退直後に極端な食事制限をして短期間で一気に痩せればよいわけではありません。
大きな体格で長期間生活していた人が急激な減量を行うと、筋肉量まで大幅に低下したり、栄養状態が悪くなったりする可能性があります。また脱水などは尿酸値にも悪影響を及ぼし得ます。
特に糖尿病、高血圧、腎臓病などの治療薬を使用している人は、減量によって必要な薬の量が変わることもあるため、医療者と相談しながら進めることが重要です。
力士の身体は「単なる肥満」とも少し違う
力士は体重が非常に重い一方、一般的な肥満者と比べて多量の筋肉を持っています。
毎日の四股、すり足、ぶつかり稽古、筋力トレーニングなどによって大きな筋肉量を維持しているため、体重だけを見て一般人と完全に同じ健康状態だと判断することはできません。
しかし、筋肉量が多くても内臓脂肪や高血圧、高血糖、高尿酸血症などのリスクがなくなるわけではありません。競技引退後に運動量だけが大きく減り、食事量が現役時代のままなら、むしろ生活習慣病が悪化する可能性もあります。
引退後は「食事量だけ昔のまま」が危険
現役力士は非常に大きな身体を使って激しい稽古をするため、多くのエネルギーを消費します。
引退すると稽古量は大幅に減ります。それにもかかわらず食事量や飲酒量が現役時代と変わらなければ、余ったエネルギーが脂肪として蓄積しやすくなります。
そのため引退後の健康管理では、単に「相撲をやめたから自然に痩せる」と考えず、活動量に合わせて摂取量を調整することが重要です。
逆に引退後のほうが健康管理しやすくなる面もある
現役中は競技力を維持するため、簡単に大幅な減量をすることはできません。体重そのものが相撲で有利に働くためです。
引退後は競技上の体重を維持する必要がなくなるため、医療上必要な減量へ取り組みやすくなります。
食事内容を見直し、ウォーキングなど身体への負担が比較的小さい運動から始めれば、血糖、血圧、尿酸値などを総合的に改善できる可能性があります。
三つの病気は同時に改善することもある
糖尿病、高血圧、高尿酸血症には共通するリスク要因があります。
例えば肥満を改善し、アルコールを控え、食事を整え、適度に運動することは、血糖だけでなく血圧や尿酸値にも良い方向へ働く可能性があります。
つまり引退後の健康管理は「糖尿病にはこれ、高血圧にはこれ」と完全に別々に考えるのではなく、体重、食事、運動、睡眠、飲酒などをまとめて改善することが基本になります。
病気ごとの引退後の変化を整理
| 病気 | 引退後に改善する可能性 | 注意点 |
|---|---|---|
| 2型糖尿病 | 減量や運動で血糖が大幅に改善することがある | 再発・再悪化や合併症に注意 |
| 高血圧 | 減量・減塩・運動・節酒で下がることがある | 体質や臓器障害によって薬が必要なこともある |
| 高尿酸血症・痛風 | 減量や節酒で尿酸値・発作が改善することがある | 遺伝・腎機能の影響もあり薬が必要な場合がある |
共通しているのは、引退後に改善する余地はあっても「引退した瞬間に治る病気」ではないということです。
一番怖いのは症状がないまま進行すること
糖尿病も高血圧も、初期には本人がほとんど症状を感じないことがあります。
高尿酸血症も、痛風発作が起きていない期間は特に不調を感じないことがあります。そのため「身体の調子がいいから大丈夫」と思って検査を受けないことが問題になります。
引退後に体重が減った人でも、血糖、HbA1c、血圧、尿酸値、腎機能、脂質などを定期的に確認することが重要です。
現役中から管理したほうが引退後にも有利
生活習慣病は、引退してからまとめて治療すればよいというものではありません。
高血糖や高血圧が長期間続くほど、血管、腎臓、眼、神経などへの負担が蓄積します。そのため現役中から検査を受け、必要なら治療を行うほうが、引退後の健康を守るうえでも有利です。
若いうちは体力があるため症状を感じにくくても、数値が高ければ医学的な管理が必要になります。
引退後に健康になるかどうかは「その後の生活」が大きい
同じような体格で現役生活を送った二人の力士でも、引退後の健康状態が同じになるとは限りません。
一人は食生活を変えて適度な運動を続け、定期受診をする。一方でもう一人は運動をやめても現役時代と同じ量を食べ、飲酒量も多い。この二人では数年後の血糖や血圧、尿酸値に差が生じても不思議ではありません。
引退そのものが治療になるのではなく、引退によって生活を健康的な方向へ変えやすくなると考えるほうが正確です。
まとめ:引退後に大きく改善する人もいるが、一生の管理が必要な人もいる
力士が現役中に2型糖尿病、高血圧、高尿酸血症・痛風を発症したとしても、引退後ずっと同じ状態で苦しみ続けるとは限りません。
現役引退によって大きな体格を維持する必要がなくなり、適切に減量し、食事、飲酒、運動習慣を改善できれば、血糖値、血圧、尿酸値はいずれも改善する可能性があります。日本高血圧学会は肥満の是正、運動、節酒、減塩などが血圧改善につながることを示し、痛風・尿酸財団も肥満解消や節酒、軽い運動を尿酸管理のポイントとして挙げています。[参照][参照]
特に2型糖尿病では、減量によって血糖管理が大きく改善し、場合によっては薬を使用しなくても良好な血糖状態を維持できることがあります。ただし、それを「完全に体質まで元通りになった」と考えるのは適切ではなく、再び悪化する可能性を考えて定期検査が必要です。
つまり「引退すれば治る」でも「一度なったら一生必ず苦しむ」でもありません。病気の進行度や体質、引退後の減量、食事、運動、治療によって経過は大きく変わります。
また、すでに糖尿病性腎症、動脈硬化、心臓病、腎機能低下などが生じている場合は、血糖や血圧の数字が改善しても障害が残ることがあります。そのため最も大切なのは、現役中から病気を放置せず、引退後も継続して健康管理を行うことです。
力士にとって引退は、競技人生の終了であると同時に、競技のための身体から長期的な健康を重視した身体へ作り替えていく時期でもあります。適切な医療管理と生活習慣の変更ができれば、引退後に生活習慣病の状態を大きく改善できる可能性は十分にあります。


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