スーパーの鮮魚売り場で「サンノジ」という見慣れない魚を見つけると、普段から海釣りをする人ほど驚くかもしれません。サンノジは一般に標準和名「ニザダイ」を指す呼び名で、磯釣りでは比較的よく知られている一方、関東などの一般的なスーパーでは頻繁に並ぶ魚ではありません。
釣り人の間では、アイゴやイスズミなどと同様に「磯臭さが出ることのある魚」「狙って持ち帰る人がそれほど多くない魚」という印象を持たれる場合があります。しかし、ニザダイは決して食べられない魚ではなく、鮮度管理や締め方が良ければ非常においしい白身魚として評価されることがあります。
そのため、埼玉県の大型スーパーで商品として販売されていても不思議ではありません。ただし全国的な定番魚とは言いにくく、産地、仕入れルート、その日の水揚げ状況などによって店頭に並ぶ機会にはかなり差があります。ここでは「サンノジ=ニザダイ」とはどんな魚なのか、なぜ釣り人には外道扱いされることがあるのに商品として値段が付くのかを整理します。
- サンノジの標準和名は「ニザダイ」
- ニザダイは「鯛」の仲間ではない
- なぜ釣り人には外道扱いされることがあるのか
- 実は処理の良いニザダイはかなりおいしい
- なぜスーパーで値段を付けて販売できるのか
- 「未利用魚」「低利用魚」として販売されるケースも増えている
- 埼玉のスーパーに並ぶのは珍しい?
- 海沿いの地域なら店頭で見かけることはある
- 「サンノジ」という表示はおかしいのか
- 「ニザダイ」と書くと鯛と勘違いされる?
- アイゴ・イスズミなどと同じ扱いでいいのか
- 釣ったニザダイとスーパーのニザダイでは条件が違う
- 購入するときは鮮度と処理状態を確認したい
- ニザダイはどんな料理がおすすめ?
- 値段は高級魚ほど高くないことが多い
- サンノジという名前の由来も魚売り場では面白い
- 地域によって「普通の魚」と「珍魚」は大きく変わる
- まとめ|サンノジはニザダイ。珍しい店頭販売だが食用魚としては十分成立する
サンノジの標準和名は「ニザダイ」
「サンノジ」は魚の正式な標準和名ではなく、ニザダイの代表的な地方名・呼び名です。市場魚貝類図鑑の呼び名データベースでは、関東の市場、伊豆七島、神奈川県、静岡県、三重県、和歌山県、山口県、徳島県、大分県、鹿児島県など幅広い地域で「サンノジ」と呼ばれることが確認されています。[参照:市場魚貝類図鑑・サンノジ]
名前の由来は尾の付け根に並ぶ硬い骨質板です。後方の骨質板が三つ並んで見えることから「三の字」「サンノジ」という呼び名が生まれたとされています。
そのため魚売り場で「サンノジ」と表示されていても別種の魚というわけではなく、基本的にはニザダイを指しています。地域によってはむしろ「ニザダイ」より「サンノジ」の方が通りが良いこともあります。
ニザダイは「鯛」の仲間ではない
ニザダイという名前を見ると、マダイやクロダイと同じ「タイ科」の魚だと思いやすいのですが、分類上は別のグループです。
FishBaseではニザダイ(Prionurus scalprum)はAcanthuridae、いわゆるニザダイ科・クロハギ類に近いグループに分類されています。マダイなどのタイ科とは分類上かなり異なります。[参照:FishBase]
したがって「ニザダイ」という商品名から一般的な鯛の一種だと考えるのは正確ではありません。もっとも「○○ダイ」という名前なのにタイ科ではない魚は日本の魚名では珍しくありません。
なぜ釣り人には外道扱いされることがあるのか
ニザダイは本州以南の浅い岩礁域などに生息し、磯釣りでは比較的遭遇しやすい魚です。狙っているメジナやイシダイなどとは違う魚として掛かることもあるため、釣り人には「外道」という印象を持たれることがあります。
さらに評価を下げてきた大きな理由が、個体によって非常に強い磯臭さが出ることです。市場魚貝類図鑑でも、ニザダイには磯臭い個体があり、内臓が大きく餌を長く保持することなどから、処理が悪いと臭みが出やすいとされています。[参照:市場魚貝類図鑑・ニザダイ]
釣ってから長時間そのままにした魚と、漁獲直後に適切な処理をされた魚では、食味に大きな差が出る可能性があります。このため「昔釣ったものは臭かった」という経験と、「鮮魚店で売られているものがおいしい」という評価は両立します。
実は処理の良いニザダイはかなりおいしい
ニザダイについて面白いのは、評価が極端に分かれやすいところです。市場魚貝類図鑑では、丁寧に水揚げして活け締めし、早く内臓を除去した個体について、臭みがなく非常に味の良い魚と高く評価しています。[参照:市場魚貝類図鑑「扱い次第で高級魚、ニザダイ」]
身は透明感のある白身で、刺身だけでなく、煮付け、塩焼き、ムニエル、フライなど幅広い料理に使えます。骨から良いだしも出るとされています。
つまり「ニザダイだからまずい」のではなく、個体差と漁獲後の処理による差が非常に大きい魚と考えた方が実態に近いでしょう。
なぜスーパーで値段を付けて販売できるのか
魚の商品価値は「釣り人に人気があるか」だけで決まりません。食味、鮮度、サイズ、漁獲量、物流、仕入れ価格、その地域での需要などによって決まります。
ニザダイは一般的な市場価値が高い魚ではなく、現在でも入荷量は多くありません。市場魚貝類図鑑では「少ないながら入荷を見る」「野締めは安く、活魚もそれほど高くない」とされています。[参照:市場魚貝類図鑑]
逆に考えると、仕入れ価格が比較的手頃で、きちんと処理された個体を確保できれば、スーパー側にとっては「珍しい地魚」「手頃な白身魚」として商品化する余地があります。
「未利用魚」「低利用魚」として販売されるケースも増えている
近年の鮮魚売り場では、以前なら産地周辺だけで消費されていた魚や、まとまった流通に乗りにくかった魚が販売される機会があります。
一般消費者が名前を知らない魚でも、鮮度や処理が良く食用として問題がなければ、地魚フェアや産直企画などを通じて都市部へ運ばれることがあります。
ニザダイも市場魚貝類図鑑では流通量が少なく、未利用魚のような扱いを受けることがある一方、丁寧に扱えば商品価値を高められる魚として評価されています。つまり「昔は値が付かなかった魚が、現在は売られている」という現象自体は十分あり得ます。
埼玉のスーパーに並ぶのは珍しい?
埼玉県は海に面していないため、ニザダイが地元で水揚げされることは当然ありません。そのため日常的な定番商品として目にする可能性は低いでしょう。
一方、大型スーパーでは全国の産地や中央市場などから魚を仕入れています。その日の水揚げ状況や仕入れ担当者の判断によって、普段ほとんど見かけない魚がスポット的に並ぶことがあります。
18年間同じ店舗へ通って一度も見なかった魚が突然並ぶというケースでも、それだけで不自然とは言えません。むしろニザダイのように流通量が少ない魚では、「定番商品ではなく、その日にたまたま仕入れられた魚」という可能性が高いでしょう。
海沿いの地域なら店頭で見かけることはある
ニザダイは日本の広い範囲に生息しているため、水揚げ地域周辺では都市部より目にする可能性があります。
市場魚貝類図鑑では、産地周辺で探せば見つかる魚として紹介されています。また高知県大月町では、ニザダイを内臓を抜いた状態で販売する例も紹介されています。[参照:市場魚貝類図鑑・高知県大月町]
一方、沖縄などでは同じニザダイ科のクロハギ類が比較的一般的な食用魚として流通しています。クロハギについても、沖縄県では市場などでよく見かける手頃な食用魚とされています。[参照:市場魚貝類図鑑・クロハギ]
「サンノジ」という表示はおかしいのか
魚介類では標準和名だけでなく、地域で定着した地方名や市場名が販売名として使われることがあります。そのため「サンノジ」という呼び方自体がおかしいわけではありません。
実際、「サンノジ」は関東の市場を含む多数の地域でニザダイを指す呼び名として記録されています。[参照:市場魚貝類図鑑・呼び名DB]
ただし、魚に詳しくない消費者への分かりやすさという意味では、「サンノジ(ニザダイ)」のように標準和名を併記した方が親切でしょう。珍しい魚ほど、一般名と地方名を両方表示すると調理法を検索するときにも便利です。
「ニザダイ」と書くと鯛と勘違いされる?
これは逆に難しいところです。標準和名を正しく「ニザダイ」と表示しても、魚に詳しくない人なら名前の「ダイ」だけを見てマダイの仲間だと思う可能性があります。
一方「サンノジ」とだけ書けば、そもそもどんな魚か分からない人が大半でしょう。そのため商品説明に「ニザダイ科の白身魚」「刺身・煮付け・塩焼き向き」など簡単な説明があると消費者にとって分かりやすくなります。
少なくとも「サンノジ」という名前を使うこと自体を、海なし県の消費者が知らないことを利用した表示とみなす根拠はありません。地方名として実際に広く使われている呼称だからです。
アイゴ・イスズミなどと同じ扱いでいいのか
ニザダイ、アイゴ、イスズミなどは磯釣りで一緒に語られることがあります。いずれも海藻などを食べることがあり、個体や時期、処理状態によって磯臭さを感じるケースがあります。
そのため釣り人の経験上、「同じような外道」と分類されることがあります。しかし生物学的には別のグループであり、食味や臭みの出方も完全に同じではありません。
また、どの魚も地域によって食文化が異なります。ある地域では捨てられる魚が、別の地域では普通に市場へ並ぶことは日本の魚食文化では珍しくありません。
釣ったニザダイとスーパーのニザダイでは条件が違う
昔、磯釣りで釣れたニザダイをその場でリリースした経験がある人にとって、スーパーで値札が付いている姿は違和感があるかもしれません。
しかし釣魚の場合、狙っていない魚だったため締めや血抜きの準備をしていなかったり、持ち帰る前提で扱わなかったりします。一方、商品として流通する魚は最初から食用として扱われ、漁獲直後から冷却や締め、内臓処理などを行っている場合があります。
この違いは臭みが出やすいニザダイでは特に重要です。「釣ったときの印象」と「商品として処理された魚」の評価が大きく異なっても不思議ではありません。
購入するときは鮮度と処理状態を確認したい
ニザダイをスーパーで見つけて食べてみたい場合は、できるだけ鮮度の良いものを選びたいところです。
丸魚なら、目やエラの状態、身の張りなど一般的な鮮魚のポイントを確認します。また可能なら店員に「いつ入荷した魚か」「刺身で食べられる状態か」「内臓処理済みか」などを確認すると安心です。
特にニザダイでは内臓由来の臭みが問題になりやすいとされているため、丸のまま購入する場合には早めに内臓を除去して冷蔵する方がよいでしょう。
ニザダイはどんな料理がおすすめ?
鮮度と処理が良いものなら刺身が候補になります。透明感のある白身で、脂のある個体は濃厚な味を楽しめます。
生食に抵抗がある場合は、塩焼き、煮付け、ムニエル、フライなどでも食べられます。市場魚貝類図鑑でも、生食、煮る、焼く、ソテー、揚げると幅広い調理法が紹介されています。[参照:市場魚貝類図鑑]
初めてなら、臭いを確認して問題がなければ刺身、気になる場合は香味野菜を使ったソテーや揚げ物などにする方法もあります。
値段は高級魚ほど高くないことが多い
ニザダイは、現時点では一般的にマダイや高級白身魚のような高値で安定して取引される魚ではありません。
流通量が少ない一方、知名度や需要も高くないため、市場では比較的安値になることがあります。適切に処理したものはおいしくても、その評価が価格に十分反映されていない魚の一つといえます。
そのためスーパーで数百円程度など比較的手頃な価格が付いていても不自然ではありません。逆に活け締めなど特に状態の良い個体なら、今後評価が上がっていく可能性もあります。
サンノジという名前の由来も魚売り場では面白い
ニザダイの尾柄部には硬い骨質板が並びます。魚を横から見ると、そのうち後方の三つが目立つことから「三の字」という呼称が生まれたとされています。
この骨質板は非常に硬く、ニザダイ類の特徴の一つです。英語でも同じ仲間はsurgeonfishなどと呼ばれ、尾の付け根の鋭い構造が名前の由来になっています。
魚売り場で「サンノジ」という表示を見かけたら、単なる商品用の奇抜な名前ではなく、昔から使われてきた地域名・市場名と考えると魚文化としても興味深いでしょう。
地域によって「普通の魚」と「珍魚」は大きく変わる
魚売り場の品ぞろえは地域差が非常に大きくあります。関東の内陸部では珍しいニザダイでも、海沿いの産地では水揚げ自体は珍しくありません。
反対に、関東のスーパーで普通に売られている魚が別の地域ではあまり流通しないこともあります。輸送技術や産直物流の発達によって、この境界は以前より小さくなっています。
近年のスーパーで見慣れない地魚を見かけることがあるのは、こうした物流の変化や、これまで十分利用されていなかった魚を商品化する動きも背景にあると考えられます。
まとめ|サンノジはニザダイ。珍しい店頭販売だが食用魚としては十分成立する
スーパーで販売される「サンノジ」は、基本的に標準和名ニザダイを指します。「サンノジ」は関東の市場から伊豆七島、東海、紀伊半島、九州など広い地域で使われてきた実在する呼び名です。[参照:市場魚貝類図鑑]
ニザダイは名前に「タイ」が付きますが、マダイなどのタイ科ではなくニザダイ科の魚です。浅い岩礁域に普通に生息し、磯釣りでは外道として扱われることもあります。[参照:FishBase]
評価が低くなりやすい最大の理由は、個体や処理状態によって強い磯臭さが出ることです。しかし活け締めなど適切な処理をして早く内臓を除去したニザダイは、臭みがなく非常においしい白身魚になるという評価もあります。[参照:市場魚貝類図鑑]
したがって「釣れたらリリースする魚なのに、なぜ値段が付いているのか」という疑問に対しては、釣りの対象としての評価と食材として適切に処理された魚の評価は別だから、と考えるのが分かりやすいでしょう。
埼玉県の一般的なスーパーで頻繁に並ぶ魚ではないため、18年間通って初めて見たとしてもそれほど不思議ではありません。一方、海沿いの産地では水揚げ自体は珍しくなく、高知県などでは実際に販売される例もあります。全国流通の定番魚ではないものの、仕入れ条件が合えば大型スーパーへスポット入荷することは十分あり得ます。
また「サンノジ」という表示そのものは不適切な呼称ではありません。ただ、一般消費者にはほとんど知られていない名前なので、店頭では「サンノジ(標準和名:ニザダイ)」などと併記されていれば、魚の正体や調理方法を調べやすく、より分かりやすい表示といえるでしょう。


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